逆説の基礎理論

無借金経営の落とし穴とファクタリングという抜け道

「借金は悪や」

私が三井住友銀行で法人融資を担当していた頃、こう言い切る経営者にはよく出会いました。

確かに、無借金経営という響きには清廉潔白な魅力があります。
利息を払わなくていい、銀行に頭を下げる必要もない、倒産リスクも低い。
一見すると理想的な経営スタイルに思えますね。

でも実は、この「美徳」には思わぬ落とし穴が潜んでいるんです。

私は20年以上、中小企業の資金繰りを間近で見てきました。
バブル崩壊、リーマンショック、そして最近のコロナ禍。
その度に痛感したのは、無借金経営にこだわりすぎると、かえって危険な状況に陥ることがあるということでした。

今日は、元銀行員の視点から無借金経営の本当のリスクと、その抜け道としてのファクタリングという選択肢について、現場目線でお話しします。

無借金経営という理想

無借金経営の定義と背景

無借金経営とは、金融機関からの借入金や社債などの有利子負債を一切持たない経営のことです。

貸借対照表で言えば、負債の部に利息が発生する項目がない状態ですね。
もちろん、買掛金や未払金といった事業上必要な負債は別です。

東京商工リサーチのデータによると、2022年の調査では無借金企業の比率は21.6%となっています。
つまり、約5社に1社が無借金経営を実践している計算になります。

中小企業における「借りない」ことの意味

特に中小企業では、無借金経営への憧れが強いですね。

私が銀行員時代に接した経営者の中にも「先代から『借金だけはするな』と言われてきた」という方が多くいらっしゃいました。
戦後復興期を生き抜いた経営者の教えとして、借金に対する警戒心は深く根付いているんです。

確かに中小企業にとって、借金は重荷です。
個人保証を求められることも多く、会社が倒産すれば経営者個人の財産まで失うリスクがあります。

だからこそ「借りない経営」が美徳とされてきたわけです。

無借金経営が評価される理由とその影響

無借金経営の企業は、確かに以下のような評価を受けやすいです。

財務の健全性が高い
利息負担がないため、損益計算書がすっきりしています。

経営の自由度が高い
銀行からの経営への介入もありません。

倒産リスクが低い
返済に追われて資金がショートするリスクは確実に下がります。

これらは間違いなくメリットです。
でも、実はこの「美徳」の裏に、思わぬ危険が潜んでいるんです。

落とし穴:現金があっても資金繰りは詰まる

流動性の罠:黒字倒産の実態

ここで、衝撃的なデータをお見せしましょう。

東京商工リサーチの調査によれば、2020年に倒産した企業7,773社のうち46.8%は黒字企業でした。

つまり、倒産企業の約半数は「黒字倒産」だったということです。

私が銀行員時代に目の当たりにした事例を一つご紹介します。

ある製造業のお客様でした。
受注が好調で、帳簿上は毎月しっかりと利益が出ている。
でも、売掛金の回収が3か月後、一方で材料費や人件費の支払いは翌月。
この「時間差」が命取りになったんです。

売上が伸びれば伸びるほど、売掛金も膨らみます。
手元の現金は材料の仕入れで出ていく一方、入金は先。
気がついたら「勘定合って銭足らず」の状態に陥っていました。

銀行取引の空洞化とそのリスク

無借金経営の最大の落とし穴は、実は「銀行との関係が希薄になること」なんです。

私がよく例えに使うのは、保険の話です。
火事になってから火災保険に入ろうとしても、もう遅いですよね。

融資も同じです。

金融機関としては、貸付先が適正に会社の経営を行い、借入金の返済をしてもらう必要があるため、普段から取引のない企業への融資には慎重になります。

無借金経営の企業が急に資金が必要になって銀行に駆け込んでも、「この会社の返済能力は分からんな」と判断されることが多いんです。

実際、私が担当していた案件でも、無借金企業からの緊急融資依頼は審査に時間がかかりました。
過去の取引実績がないため、一から信用調査をする必要があったからです。

「見せかけの健全経営」が引き起こす経営判断の歪み

もう一つの問題は、無借金経営にこだわりすぎることで、本来必要な投資機会を逃してしまうことです。

こう見えて、実は私も現金主義なんですわ。
でも、現金を貯め込むことと、事業の成長機会を見逃すことは別問題です。

無借金経営は往々にしてスピードを殺ぐ結果につながるからです。ビジネスの重要なKSF(Key Success Factor:重要成功要因)はスピードです。

設備投資のタイミング、新規事業への参入、優秀な人材の確保。
これらすべてにはタイミングがあります。

手元資金だけでは足りないからといって機会を逃せば、結果として企業の競争力は削がれてしまうのです。

ファクタリングという選択肢

ファクタリングの基本と種類

ここで登場するのが「ファクタリング」という資金調達手段です。

ファクタリングとは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスのことです。

簡単に言えば、「まだ入金されていない売掛金を、手数料を払って先に現金化する」方法ですね。

ファクタリングには大きく分けて2つの種類があります。

2社間ファクタリング
あなたの会社とファクタリング会社だけで契約します。
取引先(売掛先)には通知されないため、資金繰りに困っていることを相手に知られずに利用できるのが最大のメリットです。
ただし、手数料は10~20%程度と高めです。

3社間ファクタリング
売掛先にも通知して、3社で契約します。
売掛先に通知をすることにより、取引が透明になるため、手数料は2〜10%程度と比較的低めになります。

借りずに現金化:その仕組みと活用シーン

ファクタリングの最大の特徴は「借金ではない」ということです。

これは売掛債権の「売買」なんです。
ファクタリングは「売掛金(資産)の売買」であってお金を借り入れる「融資」ではありません。

つまり、貸借対照表の負債は増えません。
売掛金という資産が現金という資産に変わるだけです。

私がファクタリングを「抜け道」と呼ぶのは、この特性があるからです。
無借金経営を維持しながら、資金調達ができる。
これは画期的なことなんです。

活用シーンとしては、こんな場面が考えられます。

急な資金需要への対応
設備の故障、大口受注による材料費の先行投資など。

季節的な資金繰りの調整
売上に季節変動がある業種での運転資金確保。

成長投資のタイミング
新規事業への参入、人材採用など、機会を逃したくない投資。

ファクタリングの利点と誤解されやすい点

ファクタリングのメリットを整理してみましょう。

スピードが早い
ファクタリングは銀行融資などと比べて資金調達スピードが早く、最短で即日の現金化が可能です。

審査基準が異なる
ファクタリングは融資とは違って売掛債権の売買となるため、利用しても自社の信用情報として記録に残ることはありません。

財務状況に左右されにくい
売掛先の信用力が重要なので、自社が赤字でも利用できる可能性があります。

一方で、よく誤解される点もあります。

「手数料が高い」と言われますが、これは金利ではありません。
売買手数料なので、利息制限法の対象外です。

また、「怪しいサービス」というイメージもありますが、金融庁も注意喚起をしている通り、適正な業者を選べば問題ありません。

現場目線で考える:ファクタリングの活かし方

銀行融資とどう使い分けるべきか?

私の経験から言えば、ファクタリングと銀行融資は「使い分け」が重要です。

銀行融資が適している場面

  • 長期的な設備投資
  • 低金利での資金調達が必要な場合
  • 銀行との継続的な関係構築

ファクタリングが適している場面

  • 緊急の資金需要
  • 一時的な運転資金の不足
  • 無借金経営を維持したい場合

実際、私がコンサルティングしている企業では、「平時は銀行融資、緊急時はファクタリング」という使い分けをしているところもあります。

これなら、無借金経営の理念も保ちつつ、資金繰りの柔軟性も確保できます。

信用と取引先への影響は?

よく心配されるのが「ファクタリングを使うと信用に傷がつくのでは?」という点です。

2社間ファクタリングなら、取引先に知られることはありません。
また、信用状況を守りたい中小企業や個人事業主にとっては、メリットの一つといえるでしょう。

3社間の場合は取引先への通知が必要ですが、最近は「請求業務の効率化」として説明する企業も多いですね。

経営者としての”判断力”が問われる瞬間

ファクタリングを使うかどうかは、まさに経営者の判断力が問われる場面です。

私が銀行員時代に見てきた経営者で印象的だったのは、ある建設業の社長さんでした。

大型案件を受注したものの、材料費の先払いで資金が不足。
でも、銀行融資では間に合わない。

その時、社長は迷わずファクタリングを選択しました。
「手数料は痛いけど、この案件を逃したら会社の将来はない」

結果として、その案件は大成功。
手数料を差し引いても十分な利益を確保できました。

こういう判断ができるかどうか。
これが経営者の真価だと思います。

借りない経営の次なるステージ

無借金 vs 賢い負債活用:新しい二項対立

最近、私が注目しているのは「実質無借金経営」という考え方です。

実質無借金経営とは、金融機関から資金を借り入れているものの借入金以上の資金を保有しており、借入金をいつでも返済できる経営状態のことです。

これなら、無借金経営のメリットを享受しつつ、銀行との関係も維持できます。
まさに「いいとこ取り」の経営手法ですね。

「信用」とは何かを問い直す

長年金融業界にいて痛感するのは、「信用」の定義が変わってきているということです。

昔は「借金をしないこと」が信用でした。
でも今は「計画的に借りて、確実に返すこと」の方が評価される時代です。

ファクタリングも同じです。
「資金繰りが苦しいから使う」のではなく、「戦略的に活用する」という発想の転換が必要です。

経営資源としてのキャッシュと”信頼資本”

現代の経営において、資金は「経営資源」の一つです。
人材、技術、情報と並んで、いかに効率的に活用するかが問われています。

無借金経営にこだわって成長機会を逃すより、適切な資金調達手段を組み合わせて企業価値を高める方が、結果として「信頼資本」の蓄積につながるのではないでしょうか。

私がよく言うのは「足腰を鍛える」ことの大切さです。
登山でも、ビジネスでも、基本は同じ。

無借金経営という「理想」にとらわれすぎず、現実的な選択肢を持つこと。
それが、これからの中小企業経営に必要な視点だと思います。

まとめ

長年の銀行員経験を通じて学んだことを、今日はお話しさせていただきました。

無借金経営は確かに素晴らしい理念です。
でも、それにこだわりすぎて本当に大切なものを見失っては本末転倒です。

ファクタリングは「抜け道」ではなく、れっきとした経営戦略の一つです。
無借金経営を維持しながら、資金繰りの柔軟性を確保できる。
これは中小企業にとって非常に価値のある選択肢だと思います。

これからの中小企業経営に必要なのは、従来の常識にとらわれない柔軟な発想です。
「借りない経営」から「賢く調達する経営」へ。

そのための武器として、ファクタリングという選択肢があることを、ぜひ覚えておいてください。

経営は生き物です。
時代に合わせて進化していく必要があります。

皆さんの会社がさらに発展されることを、心より願っております。